専門家の先生による、英語教育に関する記事

伊藤克敏先生近影

神奈川大学名誉教授 伊藤克敏 先生にお話しを伺いました。

小さいころから英語を学ぶことは 「複眼思考」を身につける第一歩

いま、お子さんに英語を学ぶ機会を与えているみなさんは、「将来世界を舞台に活躍できるようになってほしい」、「国際人として羽ばたいてほしい」といった思いを抱いていらっしゃることと思います。

「国際人として羽ばたく」ためにはもちろん、「世界の共通語」である英語の習得を欠かすことはできませんが、それとともに、ぜひ身につけてほしいのは、世界に存在するさまざまな価値観や文化を理解し、それらを寛容に受け入れることができる姿勢です。日本人としての価値観のみでしかものごとを見ることができないようでは、「世界を舞台に活躍する」ことは難しいでしょう。真の意味で国際人となるための姿勢を身につけるには、さまざまな文化や価値観にふれる体験が不可欠であり、それこそが、外国語を学ぶ意義だとも言えるでしょう。

さまざまな文化や考え方にふれることは、ものごとをさまざまな角度からとらえられる「複眼思考」を身につけることにもつながります。英語も日本語とは違う異文化のひとつですから、小さいころから英語にふれることは「複眼思考」を身につけるための大きな一歩でもあるのです。

日本においては、「子どもが小さいころから英語を教えると日本語との混乱が起こる」や「文化的にもあいまいな人間になる」という説をときどき耳にしますが、多くの国で早期外国語教育が積極的に実施されている事実を見れば、それらが杞憂であることは明らかです。むしろ、外国語の学習を通して母語をより深く理解できるようになり、自国の文化を客観的に理解できるようになるというのが、いまや世界的にスタンダードな考え方です。

私はこれまで多くの外国の方と接してきましたが、他国の文化を理解している人ほど、自国の文化に誇りをもっている傾向が顕著だと感じています。

「文化心理的枠組」は 9〜15歳で固まってしまいます

一定の文化に身をおいたことで身につく価値観や思考の形式は「文化心理的枠組」と呼ばれています。この枠組が広ければ広いほど、多様な価値観を受け入れ、柔軟な思考ができるようになるのですが、この枠組みは9〜15歳くらいになると固まってしまうと言われています。つまり、その年齢になるまで限られた文化のなかだけで過ごしていると、その後も限られた価値観だけにとらわれてしまうおそれがあるということです。ですから、小さいうちからさまざまな文化や言語にふれ、「文化心理的枠組」を大きく広げておくことは、大変意味のあることです。英語学習と同様、異文化体験も早ければ早いほど望ましい、というわけです。

海外へ行かずに日本国内で母語とは違う外国語にふれることも、立派な異文化体験です。DWEのDVDを見れば、あいさつの仕方、感情の表し方など、日本語とは異なる言語環境に自然な形でふれることができますし、イベントなどで外国人の先生と楽しく交流することは、まさに生きた異文化体験です。私もよく拝見しますが、WFクラブのイベントに行かれているお子さんは自己表現がとても豊かで、外国人の先生とも、楽しそうにコミュニケーションを取っています。小さいころのこのような体験が「文化心理的枠組」を広げ、将来お子さんがもつべき国際感覚につながっていくのですね。

英語は世界の共通語です。ネイティブ・スピーカーだけでなく、ノン・ネイティブ・スピーカーとも英語でコミュニケーションを取る機会は今後ますます増えていくでしょう。小さいころから「文化心理的枠組」を広げておくと、さまざまな国の方とコミュニケーションを取る際に、「自分と違うからイヤだ!」と、その方々の文化を否定、拒絶するのではなく、「理解しよう」と思えるお子さんが育ちます。英語が、かけがえのないコミュニケーション・ツールになるのです。お子さんの意識内にこうした文化心理的な枠ができあがってしまう前に、親としてたくさんの異文化体験を与えてあげることは、お子さんの将来の可能性を大きく広げる、素晴らしいプレゼントになると思いますよ。

英語を学ぶことで、 自己表現力も育ちます

「将来は世界を舞台に」と考えたとき、じつはもうひとつ欠かせないことがあります。それは自己表現する力です。さまざまな国の人たちが意見を交わし合っているシーンをイメージしてみてください。自分の意見を率直に話せる人というのは国籍に関係なく、まわりから一目置かれる存在になることは容易に想像できるのではないでしょうか?

日本人というのは総じて自分の考えや意見をはっきり表現することが苦手だと言われますが、じつは日本語という言語の特性による部分も大きいのです。主語がしばしば省略されることで主体性は抑制されますし、動作を表す述語や否定の言葉が文章の最後におかれることでまわりの空気に合わせた決断をしがちです。

一方、英語は明確な主語をもち、述語や否定の言葉が主語のすぐ後におかれることから、「自己主張の言語」とも呼ばれます。ですから英語を小さいころから学んでいれば無意識のうちに、優れた自己表現力を育てることができます。実際、英語を話すときは日本語を話すときより積極的な性格になるという方も少なくありません。普段は意識しませんが、話す言葉はものごとの考え方や、性格にも影響を及ぼすのですね。英語学習は、自己表現力を育てるという意味でも非常に意義のあることなのです。

いま、みなさんのお子さんは、英語の学習を通じ、国際人として大切なさまざまな能力もあわせて伸ばしている真っ最中なのです。どうか自信と夢をもって、楽しく学習を続けてくださいね。

伊藤 克敏 先生

神奈川大学名誉教授
日本児童英語教育学会(JASTEC)顧問
英国国際教育研究所(IIEL)顧問
国際外国語教育研究会会長

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