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親が子供にできる英語の基礎力の育て方~慶應義塾大学名誉教授・田中茂範先生インタビュー~

大学入学共通テストで予定されていた英語民間試験の活用が見送られることになり、混迷する英語教育改革。
今後、日本の英語教育はどうなっていくのか。子供たちに求められる英語力はどういうもので、それについて親が子供にしてあげられることは何か。
慶應義塾大学名誉教授で、PEN言語教育サービス(英語を教える教師力を高めるための教師塾)の代表でもある田中茂範先生にお話を伺いました。


Q1. 英語学習に大事な基礎力とはどのようなものですか?

Q2.英語教育新時代に必要な英語力とは?

Q3. グローバル時代に必要な英語の発信力(プレゼン力、ディベート力など)を鍛えるには?

Q4.子供を英語嫌いにさせない、苦手にさせないようにするにはどうしたらいいでしょうか?

Q5. 親は子供にどのように英語で話しかけるのがいいですか?



Q1. 英語学習に大事な基礎力とはどのようなものですか?

早期から行う「口慣らし」と「耳慣らし」の重要性

英語の基礎力を養うのは一筋縄ではいきません。いくつかの観点がありますが、一番肝心なのは「音」です。
子供は大人が想像する以上に、音に対する感受性が抜群で、耳で捉えた音をキャッチする能力に長けています。

そこで鍵となるのが、「口慣らし」です。
普段日本語を話していると、口の筋肉が日本語を話す筋肉になっていますから、大人になってから英語の音を出すのはとても難しいのです。
しかし、子供の場合は、まだ日本語を話す筋肉になっていないので、非常に柔軟に対応できます。

また、「口慣らし」は「耳慣らし」に繋がっています。簡単に言うと、英語の音を聞いて真似すればいいのです。子供はみな真似っこ上手ですから。
そのためには、良質で自然な英語の音を与えてあげることがとても大切です。

言葉と状況と気持ちが一体となった慣用表現力

もう一つの英語の基礎力の観点とは、「慣用表現力」です。
"Give me a break."(勘弁して!)や"Come on."(さあ、やろうよ!)などのように、日常会話の非常に多くの部分が慣用表現で成り立っていて、実に大きな鍵となります。教科書のなかの文字としての英語ではなく、その言葉を必要とする状況があり、自然と気持ちがこもるようになることが大切です。

例えば、文字として"I have to go."(行かなくちゃ)と読むのと、早く行かないといけないのに、引きとめられてなかなか抜けられないときに"I have to go!"と言うのは、まったく違って聞こえます。
言葉と状況と気持ちが三位一体となったとき、慣用表現が本当の力となるのです。

言葉と状況と気持ちが一体となった慣用表現力


Q2. 英語教育新時代に必要な英語力とは?

持ちうるリソース(資源)で、いかにタスク(課題)を達成するか

これまでの英語学習は教科書や問題集のなかにある英語が中心で、使えるか使えないかはあまり関係ありませんでした。

今回の英語の教育改革では、よく「4技能統合」や「4技能時代」などと言われていますが、これから求められるのは、普通にグローバル時代を生きるための英語力、グローバルイングリッシュ力だと思います。

英語の言語リソースには、「単語」と「慣用表現」、それに「文法」の3つがあり、この3つのリソースを用いて、いかにいろいろなタスクをこなすことができるかが問われてきます。

リソースは利用が可能だから言語リソースと言えるのであって、これまでの学習ではリソースになっていないことが多かったように思います。

例えば単語を1万語覚えたり難しい文法を覚えたりしても、それを使って自分の表現ができなければ意味がありません。それはリソースとは言えないのです。

タスクは、複雑な交渉からプレゼンテーション、簡単な作文まで実にさまざまですが、どういうタスクにどの言語リソースを使って、いかに上手にそのタスクを達成できるか、そういう力が求められるようになるでしょう。

自分のなかに息づくマイ・イングリッシュを育てる

これまで英語の学習は、ネイティブスピーカーの英語にどれだけ近づけるかを重視していましたが、「Second Language Development(第二言語の発達)」という考え方をするようになっています。

現在、英語を実用レベルで使用している人は世界で15億人いると言われていますが、そのうち母語として英語を使用しているネイティブスピーカーの人口は4億人を切っています。
圧倒的多数が英語を第二言語として使用している非ネイティブスピーカーです。要するに、アメリカ人やイギリス人が話す英語は早晩、方言になってしまうとも言われているのです。

つまり、これからはネイティブスピーカーに近づくのではなく、英語という言語リソースを用いていかにタスクをこなしていくことができるかが大事です。

それにはやはり、自分のなかに息づく「マイ・イングリッシュ(※)」を育てていくことです。それこそが「Language Development(言語の発達)」ですよね。いくら英語の技能があっても、使えなければ意味がないのです。

※人それぞれが自分のなかに持っている自分の英語。

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「片言英語でも気にしない!マイ・イングリッシュをどんどん使おう」


Q3. グローバル時代に必要な英語の発信力(プレゼン力、ディベート力など)を鍛えるには?

幼児期から思考の回路を家庭でつくる

英語でプレゼンテーションやディベートを行う前に、まずそういう思考の回路を作っておかないといけません。それは学校で作るというよりも家庭でこそ鍛えられるものです。

例えば、幼児が親に作ったものを見せて「これ〇〇だよ」と言うのは、プレゼンテーションの一つの初歩的な形と言えますよね。
また、「〇〇ちゃんは××を持っているし、〇〇くんも××を持っているから、買って」と言うのは、ネゴシエーション(交渉)ですよね。

つまり、幼児でもプレゼンテーションやネゴシエーションの祖型のようなものを日々実践しているのです。
そこで、家でも意識をして「プレゼンごっこ」のような、遊び性を入れて親子で楽しみながら思考回路を作っていければいいと思います。

ごっこ遊びで鍛える

プレゼンテーションのいちばん大切なことは、相手を納得させる、説得力ですよね。ディベートなら、逆に相手の弱点を突かないといけません。
そういうことを親が意識して、少しずつ子供に訓練していくのがいいでしょう。

例えば、ディズニーが好きな子供なら、「どのキャラクターがいちばん好き?」と聞いて「〇〇」と子供が答えたら、「なんで?」と聞いて理由を言わせます。
そして親も「私は○○が好き。なぜなら...」というように話します。遊びながら自然とプレゼンテーションごっこやディベートごっこになるように話をもっていければいいですね。

できれば英語で行うのが理想ですが、最初から英語でやろうとすると余計な負荷がかかってしまうので、最初は無理に英語にしなくてもいいんです。
ただそういう思考の回路を作っておくと、後に英語で行う際にシフトしやすくなるでしょう。

英語で「いちばん好きなのは○○」とか「○○より××の方がいい」と言えるようになり、自然と「比較級」を使いながらプレゼンテーション力やディベート力が鍛えられます。

Q3. グローバル時代に必要な英語の発信力(プレゼン力、ディベート力など)を鍛えるには?


Q4.子供を英語嫌いにさせない、苦手にさせないようにするにはどうしたらいいでしょうか?

親は良き伴奏者に!

子供がなぜ英語を嫌いになるかというと、面白くないからです。評価されたり、強いられたりするからですね。

音の楽しさやわかることの面白さ、自分の言葉が通じたときの喜びなど、楽しさや達成感をいかに増やしていくかに尽きると思います。
親が自分の先入観で、こうあるべきという固定概念を持ち込んではいけません。

そして親も子供と一緒に真剣に英語と向き合うことが大切です。子供は覚えるのが早いので、親は絶対に負けますから、親は良き応援者であり伴奏者になって欲しいです。

家庭の一部分を英語空間にする

まず、なるべくたくさん英語に触れさせる、その質と量が重要です。
次に英語をたくさん使う、そしてそれが自然である、「触れる」「使う」「自然」の3つの条件が環境的に整えば、誰でも英語は身につきます。

一番いいのは、家庭の一部分を英語で日常化してしまうような英語空間を作ることです。
まず英語の音を子供がいやがらない範囲で聞かせてあげる、インプットから入ります。CDやDVDなどをただ流しているだけでも効果はありますが、やはり親が英語で語りかけることで、よりインプットが効いてくると実証されています。
そして何よりそれを習慣化し、毎日続けることが大切です。

Q4.子供を英語嫌いにさせない、苦手にさせないようにするにはどうしたらいいでしょうか?


Q5. 親は子供にどのように英語で話しかけるのがいいですか?

前置詞を活用する

英語という言語に絶対に欠かせないのが「前置詞」です。
英語は「前置詞言語」と言っても過言ではありません。日本語の「てにをは」と同じです。

前置詞は数が少ないので覚えやすく、今後50年、100年でその数が増えることはありえません。
そのなかでも重要なのは20くらいですから、親が前置詞を使った英語で話しかけて、できるだけ子供が小さいうちに感覚的に身につけさせてしまうことが望ましいです。

日常会話のなかに英語を取り入れる

同様に、"take"や"put"、"get"などの使用頻度の高い「基本動詞」をフォーカスしてトレーニングするとよりいいと思います。

「動詞」と「前置詞」、「動詞と前置詞の組み合わせ」の3つが英語の語彙のなかのコア中のコアです。日常の家庭のなかに普通に取り入れたり、家のなかの道具を使って行ったりするのがいいでしょう。

例えば"put on"は、「着る」「身につける」「テレビをつける」など、日常で使える表現がたくさんあります。音楽をかけたいとき、子供に"Please put some music on." (何か音楽をかけてくれる?)などと英語でお願いできたらいいですよね。親が子供にできるだけ日本語を介さないで日常的に英語を使うととても良いと思います。

子供を信じて待つ

注意したいのは、子供がなかなか英語を話さなくても焦らないことです。
インプットからアウトプットに切り替わる過程では、待つことが重要です。個人差や性格的なものもありますし、まったく話さなかった子供が1、2年してある日突然話し出すということもよく聞く話です。

それを待ちきれずに、「こんなことやっても無駄だ」とか、「役に立たないからもう止めよう」とならないように、とにかく子供を信じて継続していって欲しいです。

インタビューを終えて

グローバル時代に必要な英語力は、ネイティブスピーカーのようになることではなく、自分のなかにある「マイ・イングリッシュ」でいかにさまざまな課題を達成していくかということがよくわかりました。

それには幼いうちから日常のなかに英語を取り入れ、いかに自然に使えるような環境を整えるかが重要です。親は伴走者となって子供と一緒に真剣に英語に向き合い、子供を信じて待つことを心がけたいものです。


田中茂範先生

プロフィール:田中 茂範(たなか しげのり)

PEN言語教育サービス代表、慶應義塾大学名誉教授。コロンビア大学大学院博士課程修了(教育学博士を取得)。
NHK教育テレビで『新感覚☆キーワードで英会話』(2006年)、『新感覚☆わかる使える英文法』(2007年)の講師を務める。JICA(独立行政法人 国際協力機構)で海外派遣される専門家に対しての英語研修のアドバイザーを長年担当。
主な著書に『コトバの「意味づけ論」―日常言語の生の営み』(紀伊國屋書店)、『「意味づけ論」の展開―情況編成・コトバ・会話』(紀伊國屋書店)、『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み-ECF-』(リーベル出版)、『英語習慣をつくる1日まるごと表現600プラス』(コスモピア)他多数。

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