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英語教育に関するニュース

『学びとは何か』書影

今井 むつみ (著)
『学びとは何か――<探究人>になるために』
岩波書店

2020年の教育改革により、子供たちには主体的に学ぶ姿勢がますます求められるようになります。
今回ご紹介する『学びとは何か――<探究人>になるために』という本は、人間がことばを獲得する過程を分析して「学びとは何か」を明らかにしており、主体的に学べる子供を育てるための参考になる内容です。
本書の中から、英語教育をはじめとする家庭学習のヒントになりそうな部分をご紹介しますので、ぜひチェックしてみてください。

言語の習得とは、知識をシステムとしてつくり上げていく過程

本書によれば、子供の言語習得は、単なる知識の断片を貯める過程ではありません。
乳幼児は、耳にする言語をただ聞き流すのではなく、つぶさに分析して、そのことばの背景にあるパターンを発見して推察していきます。

例えば、8ヵ月くらいまでの日本人の赤ちゃんは英語の"r"と"l"の音を区別して聞き分けられますが、1歳頃にはもう区別できなくなってしまいます。
母国語に特有の音の区別の仕方を身につけたために、母国語では必要のない識別能力を失っているのです。

また、1歳半ばを過ぎた頃の乳児は、人の話すことばをまず単語に区切って聞きとり、ざっくりとした「思い込み」でことばを判断しています。
そのため、雪を見て「雪だよ」と教えられた子供が、こぼれたミルクを見ても、床に落ちた白いタオル見ても、みな雪だと認識してしまうようなことが起こります。

このように、子供はことばにふれながら、情報を言語に関する知識学習システムを作りあげていきます。
この知識学習システムをスキーマ()といい、スキーマによってことばの学習は加速していくのです。

※スキーマ:
外界の情報に対して、それを一般化して認識するための知識の集まり。 人間は、過去の経験の積み重ねによって形成されたスキーマを通してものごとを認識している。

外国語の学習では「思い込み」の修正が重要

上記のように、スキーマはことばの習得のために重要ですが、母国語のスキーマを外国語にそのまま適用してしまうと、外国語の学習を妨げてしまいます。

例えば、日本語の動詞「着る」は、英語の動詞"wear"と全く同じ意味でありません。
「着る」と"wear"の意味には以下のような違いがあるため、同じような使い方すると間違った使い方になってしまいます。

「着る」と"wear"の意味の違い

着るwear
身につける動作を表すか? ×
身につけている状態を表すか?

英語で服を身につける動作を表すのは"put on"ですが、日本語の「着る」と同じスキーマで考えてしまうと、間違って"wear"を使ってしまいます。
また、英語には"wear makeup"(化粧をする)という表現がありますが、日本語の「着る」は化粧については使うことができません。

このように、異なる言語は単に単語の意味が一致しないだけでなく、語彙の構造そのものも大きく異なるのです。
つまり、英語を始めとする外国語をきちんと理解するためには、スキーマをゼロから作り直さなければなりません。

そして、外国語を学ぶとき、「思い込み」による誤ったスキーマが生まれること自体を防ぐのは困難です。
誤った知識を修正し、スキーマを修正していく過程こそが重要なのです。

「ごっこ遊び」はことばの発達と連動

子供の時の遊びが知性の発達に非常に重要であることも、本書では述べられています。
特に、子供は「ごっこ遊び」を通して、世界のさまざまなシーンから切り取ったことばを象徴化し、試行錯誤して習得していきます。
例えば、コップが無いときに何かをコップに見立てて飲むふりができるということは、コップの機能を理解し、象徴化できるようになっているということです。
子供は遊びを通じて世界を象徴化することを試しているのです。

そして、子供が遊びから何を学べるかは親の技量にかかっています。
子供が最初に他者との関わりかたを学ぶのは、親子の遊びからです。
親が主導権を握ってしまい、「教える」状態になってしまうと、遊びではなくなってしまいます。
一方、全てを子供に任せてしまうと、子供はじっくりと遊びに取り組むことをしないケースが多くなります。
子供の個性と発達の段階に適した、親子で一緒にできる遊びを親が考える必要があるのです。

主体的に学べる子供を育てるために親ができること

本書では、発達の最近接領域(ZPD:Zone of Proximal Development)という発達心理学の概念も紹介しています。
ZPDとは子供が他の人からの協力やヒントを得て達成できる水準のことで、子供への教育的な働きかけは、この水準に合わせることが重要だといわれています。
子供は大人や少し年上の仲間の力を借りて、いまよりも少し発達レベルの高いところに上っていくことができるようになりますが、この時、子供を上から引っ張り上げるのではなく、子供が自分でよじ上っていけるように、環境を作って下から少しだけ支えることがポイントです。

そして、子供が主体的に学べる環境を作るためには、下記の点に注意することが大切だそうです。

  • ちょうどよいレベル設定をすること。子供の発達レベルの設定が高すぎても低すぎてもうまくいかない
  • 親は子供の間違いを否定しない。誤ったスキーマだった時には、子供が自分でおかしいと気づくように手助けしてあげる

こうした環境の中で学び続ければ、子供は自分で誤りに気づき、自分で修正できたという達成感を感じることができるので、学びへの意欲も高まっていきます。

まとめ

本書からは、ことばの習得が学ぶという活動の原点になっていることが、よくわかります。
また、外国語の習得では知識やスキーマを修正し続けることが重要と述べられていますが、だからこそ学習意欲を維持することが大切といえるでしょう。
そして、子供の意欲や主体性を失わないようにしながら子供の発達を促すには、親の配慮や工夫が非常に重要なのです。
ご家庭で子供向け学習教材を選んだり使ったりするときに、本書を参照してみると大きなヒントになりそうです。


著者略歴

今井むつみ

1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。
1994年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。
現在は慶應義塾大学環境情報学部教授。専攻は、認知科学、言語心理学、発達心理学。
主な著書に『ことばと思考』(岩波書店)、『言語と身体性』(共著・岩波書店)、『ことばの発達の謎を解く』(筑摩書房)、『言葉をおぼえるしくみ: 母語から外国語まで』(筑摩書房) などがある。

※書籍刊行当時の情報です。

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