専門家の先生による、英語教育に関する記事

第17回佐藤先生エッセイ
今回の玉川大学 佐藤 久美子先生のエッセイでは、幼稚園での英語教育が成果を上げた事例をご紹介いただきます。ご家庭での英語学習の参考になるポイントもたくさんあるようです。
また、『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』コーナーでは、子供が英語の教材を最後まで見てくれないときの対応法について説明していますので、是非チェックしてください!

幼稚園の英語学習カリキュラムプロジェクトのきっかけ

2016年の秋、子供の言葉の発達についての私の講演を聞かれた幼稚園の理事長さんから、「本格的に幼稚園児にふさわしい英語の学びを取り入れたいので、カリキュラム作りや指導に協力してほしい」とお声をかけていただき、お引き受けしました。
それは、講演会に再三足を運んでくださった理事長さんの熱意に打たれたのと、幼稚園における英語の学びにとても興味があったからです。

幼稚園カリキュラムプロジェクトを立ち上げ、指導案を作り、岡山にある幼稚園にスタッフ4名で交代に伺い、1年かけて担任の先生たちへの研修を行いました。
そして2018年の4月から、幼稚園の年少・年中・年長クラスで英語学習がスタートしました。

良い音源のついた教材さえあれば、幼稚園の先生でも英語を教えられる

このプロジェクトでまず着手したことは、幼稚園のクラス担任の先生が一人で英語の授業を教えられるようにすることでした。
大きな幼稚園なので、クラス数は3学年合わせて13クラスあります。専属の英語専科の先生は一人いましたが、その方がすべてのクラスを教えるわけにはいきません。
そこで、4月から3月までの月別カリキュラムを策定し、指導案も具体的に書き、担任が一人で授業をできるように模擬授業なども含めた研修をしました。
幼稚園の先生たちも、小学校の先生たちと同じで、当初は発音などにとても不安があったようです。
しかし、子供たちが求めているのは担任の発音ではなく、担任と英語でお話ができることであり、良い音源のついた教材さえあれば、クラス担任一人でも英語を教えられることをお伝えしました。

第2に、幼稚園の先生たちは皆ピアノが弾けるので、教室にあるオルガンやピアノを使って、音に合わせて体を動かしたり歌ったりしながら英語を学ぶ方法をふんだんに取り入れました。

第3に、単に単語や1文の表現を暗記するのではなく、コミュニケーションを重視し、会話形式の「対話」を導入しました。「やりとり」の反復を通して、子供たちが担任の先生とお話のやりとりをする、あるいは、お友達とやり取りをする、応答表現をふんだんに取り入れました。
例えば、毎月第4週は、「お友達と話してみよう!」というコーナーを作り、「アウトプット=話すこと」を重視しました。園児にふさわしいジェスチャーや動作などの非言語コミュニケーションを増やし、言語表現と関連させて定着を図りました。ジェスチャーは、子供たちにも自ら考えさせて、アクティブ・ラーニング()を目指しました。

※アクティブ・ラーニング(Active Learning):
教員が一方的に教えるのではなく、学ぶ側が討論や体験などを通じて能動的に学習する活動。
学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」と表現されている。

英語を楽しみながらコミュニケーションを図ることが大切

上記のような取り組みの結果、見事に担任の先生たちは英語を教えられるようになりました。
2018年10月に岡山に訪問した時には、子供たちと先生たちが楽しそうに英語をやりとりしていたのです。

年少のクラスでも、先生たちが"How are you today?"(今日はお元気ですか?)と話しかけると、"I'm happy!"(ご機嫌だよ!)と答えます。先生が"Ask me."(私に聞いて。)と尋ねると、"How are you?"(お元気ですか?)と子供たちがたずね、先生が"I'm great!"(最高の気分だよ!)と答えると、子供たちが「Greatだって!」とお友達と笑いながら喜びます。担任が英語で答えるたびに、子供たちは笑います。先生と話すのが楽しいのです!

年長の場合は、新しい英語のDVDを持参して見せて、私が"What's this?"(これは何?)と尋ねると、全員が"It's a mouse! It's a pig!"(それはネズミです。それはブタです。)という風に答えます。はじめて出てきたwolf(オオカミ)という単語を教えても、すぐにリピートできます。
「どんなお話だった?」と聞いたところ、「pigがいろんな動物にあいさつができた。」「オオカミが出てきて食べられそうだったけど、食べられなかった!」と、思い思いに見た感想を伝えてきてくれました。表現文のチャンツもしっかりできていました。

他には、先生が"Plane."(飛行機。)と言うと、子供たちは飛行機の真似をしながら、"I can fly!"(私は空を飛べます!)と言って教室を回り、ピアノが止むと子供たちも止まります。
"Car."(車)というと、今度は運転する真似をしながら、"I can drive!"(私は運転できます!)と言いながら走り回ります。そんな体と音楽をふんだんに使ったActivityも、元気に行っていました。

この幼稚園での英語教育が1年目でも成功した大きな理由は次の3つが挙げられます。

①先生たちが英語を楽しむようになり、この気持ちが子供たちに波及して、子供たちも英語を楽しんでいること
②先生たちも英語を積極的に使い、これが子供たちに波及して、子供たちも積極的に英語を話すようになっていること
③英語を使う場面を想像しながらコミュニケーションを図ろうとすることが、子供たちにもよく理解されていること

例えば、「大好きな人に大きなプレゼントをあげるよ!さあ、やってみよう!」と先生が言うと、子供たちは大きなプレゼントを抱えているジェスチャーをしながら、"Here you are!"(はい、どうぞ!)とプレゼントを差し出します。先生が「小さなプレゼントだよ!」と言うと、「きっと指輪だよ!ママは指輪が好きだから」、とある子供が言って、大切にプレゼントをあげる動作をしながら"Here you are!"と言いました。
big(大きい)とsmall(小さい)の概念をよりわかりやすく教えようと、先生によっては、"A big onigiri, here you are!" (大きなおにぎり、はい、どうぞ!)、"A small onigiri, here you are!" (小さなおにぎり、はい、どうぞ!)と工夫をして導入していた例もあります。

こうした活動を見ると、子供たちは担任の先生や友達とコミュニケーションをすることが大好きで、英語を通してコミュニケーション力をつけることができることがよく分かります。これからの時代に求められているのは、言葉を通してインタラクション(相互のやりとり)ができる人ですが、英語学習を通じてその基礎を養うことができているようです。

『佐藤先生に聞く!英語教育お悩み解消Q&A』第15回:子供が英語の教材を最後まで見てくれなくても交換し続けてよいのでしょうか?

第15回佐藤先生Q&A

◆DWEユーザーの方からのご質問◆

2歳の子供が観たいと持ってきた英語のDVDを流したのですが、すぐ違うDVDを持って来て、交換してほしいとアピールします。
交換しないと泣いて怒るため交換するのですが、DVD1枚完結するまで見てくれない時があります。
日によっては何枚も交換し続けます。そういったときはどうしたらよいのでしょうか。交換し続けていいのでしょうか。


◆佐藤先生のご回答◆

答えは"Yes!"です。お子さんが気に入っているDVDを、どうぞ見せてあげてください。
親は全ての教材をしっかり使ってほしいと思いがちですが、お子さんの気持ちを大切にしましょう。
子供が教材を頻繁に交換して見たがったり、逆に同じ教材ばかり使っても気になさる必要はないと思います。
例えば、絵本をたくさん買ってあげたのに、毎日同じ本を読んでほしいとねだる子供にも、気に入っている絵本を毎回読んであげればよいと思います。

英語のDVDを見ている子供をよく観察してみると、イラストをしっかり見ていたり、歌の歌詞を覚えようとしていたり、親が気がつきにくい部分を吸収しようとしている場合が多いと思います。子供は、大人が気がつかない部分で学びをしているのです。

また、子供が飽きてきた時期に、「こんなのはどう?」と言って見てほしい教材をすすめれば、案外気に入ることもあるかもしれません!


佐藤先生近影

佐藤 久美子先生

玉川大学大学院 教育学研究科(教職専攻) 脳科学研究所 教授。
長年、子供の言語獲得・発達の過程を研究し、研究から得られた科学的知見を外国語としての英語教育に応用し、指導法や教材開発を行う。
2016年の3月まで、NHKラジオの「基礎英語3」の講師を通算8年務め、テキスト執筆や番組のプログラムに知見を活かす。さらに、2012年度からNHK eテレの「えいごであそぼ」、「えいごであそぼwith Orton」の総合指導を担当。

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